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「笑わせるわね」
鼻で笑うと、スラリ、と鈍く光る妖刀を鞘から抜く。蒼雨(あおさめ)が音もなく私に近づくと、すっと刀身をなで、その力をさらに刀に宿す。竜の力を得た妖刀は青白く輝き、私は刀の脈動を感じた。
妖怪はけけと笑う。
「あんたがまさか、八乙女家の生き残りとは思わなかったな」
「そりゃあどうも。…さあ、おとなしく狩られなさいな」
「それであんたは満足なのかい?」
「どっちかって言ったら満足じゃないけどね、面倒事はごめんよ」
+
っていう話が書きたいの
いかないでくれと呟いて、苦笑いされて、そして結局お前はもどらなかった。
+
数多の星が瞬く下での再会と別れは本当に一瞬だった。俺は東軍でお前は西軍だった。何を思って一体お前は西軍についたのかという内容の文書をごくごく内密に送ると、成り行きでこうなってしまったという内容の返事が、巧みに隠されて送られてきた。釣りの成果に例えられて書かれたそれは、心なしか磯の香りがして、涙が零れ落ちそうになった。
お前は動かなかった。
毛利の子息に、島津の派遣したものに、いったい何を吹き込まれたのか知らないけれど、お前はとにかく彼らとともに動こうとしなかった。俺も動けなかった。俺は結局のところ臆病ものだったのだ。徳川の本陣を横切ってお前の元までゆくことができなかった。お前も臆病ものだった。裏切ることも参戦することもせず、ただ日和見的にこの大戦に参加していただけだった。
結局俺達二人は臆病ものだった。
すべてに対して臆病だった。
すべてが終わった後、一瞬だけお前と再会した。
やつれて、美しい銀の髪の毛もつやがなく、恐ろしいほどに冷たい表情の馬上のお前を見た瞬間に、俺の心臓は槍で突かれたようにすくみ上がった。それから俺はなりふりかまわずお前に駆け寄って、抱きしめて、必死になってすべてを弁解しようとした。
お前はすべてを聞き入れて、それから、すべてを投げたように微笑んで、
すべてをふりきって、
それから、
+
何書きたかったのこれ
リディア愛してるよ!
エッジ→リディア→セシルとかいいよね!だめかな!
個人的にはギルバートが一番好きなんです
「ご機嫌麗しゅう、探偵クン――おや、もうそう呼べるような年齢じゃなかったか。
名探偵でいかがだろう」
「……。
てめーが犯行予告を出したのはおれの家じゃねーだろうが」
「いやいや。私は貴方の心を盗みに参上したのですよ」
気障ったらしいセリフを恥ずかしげもなく言い放ち、俺のこぶしをひらりとかわして、怪盗は勢いづいて転びそうになった俺をさっと支えた。やつの白いマントに包み込まれる形になった俺は、情けなさと気恥かしさでいっぱいになり、顔を見られまいと下を向いた。耳の色がどうなっているかなんてもう知るものか。
小学一年生から高校二年生へ、再び急激に成長した俺には、高校生とは思えないほどのほんのわずかな体力しか無かった。俺の『掛かり付け医』(つっても、無免許だろうけど)は、「徹底的なリハビリが必要ね」と冷たく一言言い放つと、博士に協力を要請し、特注のリハビリ器具を拵えた。俺はせっせと高校へ通う傍ら、家に戻れば毎日その器具と戯れている。俺の幼馴染は何度も手を貸そうとしてくれているが、俺はそのたびに全部きっぱりと断ってきた。こればかりは一人で成し遂げるしかないし、いざとなったら手を貸してくれる人間がいるかどうかわからないわけだから、やっぱり一人で訓練するのがちょうどいいのだ。
新聞に大々的に例のコソドロの犯行予告状が掲載されてから、一週間。今日が予告状に書かれていた日付である。現場で活発的に動き回れるほどの体力がない俺は、警部にいくつかのヒントを与え、いざとなったら連絡するようにとだけ伝え、自宅でやきもきしながらリハビリに勤しんでいる。小学一年生であったころのおれの方が体力的に勝っていたなんて到底信じたいけれども、そいつを高校生の身体に拡張したら当然相対的に体力は落ちるだろう。
俺が現場で半ば叫ぶように中継を続けるアナウンサーをTV越しに見つめながら、脚力を鍛えていたその時だった。ファンが名前をコールし、現場の警部たちが監視カメラとにらめっこし続けて今か今かと登場を待たれているそのコソドロが、俺の部屋の窓をノックしたのだった。
「で、てめーはいつまでここにいるつもりだ。
もうそろそろ犯行予告の時間じゃないのか?」
「探偵クン――いや、名探偵は私を捕らえるのが仕事なのでは?」
「バーロ、手錠も何も持ち合わせちゃいねーし、今の体力じゃ何も出来やしねえ」
「おやおや」
「…それより、さっさと解放してくれ。てめーをとっ捕まえるためのリハビリの最中なんだからな」
怪盗はくすくすと笑ったあと、ベッドまで俺をサポートした。何故か高鳴ったままの鼓動を鎮められないまま、俺は何とはなしにTVを見た。アナウンサーが犯行時刻までの残り時間を絶叫している。野次馬――いや、怪盗のエンターティナーショウを心待ちにしている観客たちの歓声が、TVから聞こえる。隣で一緒になってTV画面を覗き込んでいる怪盗が、「ヘリがあまり飛んでいないなあ」と間抜けな感想をもらした。
「ほら、時間がねえぞ」
「心配して下さっているのかな」
「バーロ、おめーが予告通りに現れなかったら、文句言われるのはおれなんだよ。
暗号を解いたのは俺なんだからな」
「なるほど」
ワザとらしく手を打つと、怪盗はマントを翻して窓枠に足をかけた。俺は本当に為すすべもなく、その様子を見つめていた――ルパン対ホームズなんて小説がどこかにあったな、と思い返しながら。あの話は本当に滑稽だった。ホームズファンの俺としてはルパン側視点の小説なんてあまり読む気はしなかったが、親父の薦めでとりあえず流し読みをしてみた。そうしたら案外面白かったのだが、純粋なホームズファンとしてはやはり良い気がしない。
ところで、怪盗は足をかけたまま動こうとしなかった。俺が訝しげにやつを見つめていると、突然やつは再び俺の方に向き直って、小さくため息をついてから口を開いた。
「本当は、名探偵のいない現場に盗みに入るのは気が進まないのですよ」
「……?あのイギリス帰りの坊ちゃんが、今日は現場にいるはずだぜ。
警部があんまりにも心配そうだったから、応援を要請しといたんだ」
「………それはそれはご丁寧に。
それでは、私は向かうとしましょうか。大事な役者の欠けた舞台へと」
la rosa bianca